透明人間 第4話

透明人間 第4話

TODA RABA

高校に入ると、Aはメモを書き始めた。それは「書かずにはいられない衝動」のようなもので、頭に思い浮かぶものをひたすら文字や記号にしていく。回りくどい書き方をするのは、そのメモを見られても内容を悟られないようにするため。ただのポエムだと思わせるためだ。

Bは日常生活のいろんなものに気を使うようになった。みんなと同じような言動や服装で、紛れ込むこと。テレビやお笑い番組をチェックして、溶け込むこと。持ち物をシンプルなものにして、自己主張をしないこと。

さくらは吹奏楽部に入部し、戸田くんはサッカー部に入部した。Aは人間が嫌いだったので部活動には入りたがらなかった。Bは無難な運動部に入ろうとしていたが、さくらに無理やり誘われて吹奏楽部に入った。

3人はこれまでと同じように話したが、話す機会は減った。

Cは女性の意識体だったので、戸田くんに好意を持っていた。

「水と光の浸食で世界はスーパーフラットになる」

Aはメモを続け、Bは破壊の概念をコントロールしていた。

破壊の概念は授業中に突然現れて、Bの体を支配する。そしてその概念をコントロールしているうちは、Bは他人とコミュニケーションができない。先生にあてられてもBは黙っているため、心配して「保健室に行くか?」と聞かれたりした。

Bはまださくらと付き合っており、部活が終わると一緒に帰っていた。

「進路とか、考えてる?」

「特に」

「あたしは、保育園の先生になりたいな」

さくらはこのとき、まさか自分が死んでしまうとは思わなかっただろう。

「いいじゃん。応援するよ」

Bもさくらの言葉をきいてうれしくなった。

「今日はうち、両親が出かけてるの」

「そうなんだ」

「うちに来る?」

その時、戸田くんが後ろからやってきて合流する。

「久しぶり!来週のクラスマッチTシャツのデザイン頼まれちゃった」

戸田くんはイラストが上手い。パソコンでよくイラストを描いているらしく、その腕前は確かなものだった。

「アイデア聞かせてよ!うちに遊びに来て」

Bは苦笑いをしながらさくらのほうを見た。

さくらは何事もなかったように暮れていく空を眺めていた。 


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