諦観ダイナミクス

諦観ダイナミクス

A

僕は幽霊だ。


それは客観的な事実ではなかった。


第一に幽霊は目に見えない。


第二に僕は自分が幽霊であるという確信が持てない。


第三に幽霊は物質ではない。


以上から、僕が幽霊であるという事実を証明することは難しいという結論に達した。


「雨が降りそう」


「もう梅雨入り?」


「傘忘れた」


そんな風にして人々は家に帰って行った。


真夜中の交差点。


僕はいつものように立ちすくんでいる。


フロントガラスを濡らしたタクシーが僕の体を通り過ぎていく。


血。


それは生きていることを証明する唯一の方法だ。


人々は赤い色を嫌う。


それはヘモグロビンの持つ赤さを連想させるからだ。


「何してるの」


突然女の子に話しかけられて、僕は言葉を失った。


「君、僕のことが見えるの?」


「当然じゃない」


女の子は僕の方に歩いてくると、傘を広げた。


「ずぶ濡れだよ」


こうして僕たちは雨の降る夜に出会ったのだった。

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