透明ジャンクション

透明ジャンクション

A

僕がその物語を書き終えた時、世界は終わりかけていた。


大地震、大洪水、隕石の衝突、奇病の流行。


それでも生きたいと願う人たちの、最後の願い。


人々は「生きたい」と願う。


すべての人が悲しまなくてもいい世界というものが存在するとしたら。


「ただいま」


「おかえり」


「ガリガリ君チョコミント味、売ってなかった」


「まじか」


僕たちは一緒に暮らし始めて3ヶ月だった。


最後の恋と決めていた恋が終了して、僕は安心感に包まれていた。


「もう頑張らなくていいんだ」


それは戦いの終了を意味していた。


「パスタ」


「ありがと」


きっと世界はいつでも美しさに溢れていて、そして僕たちはそれに気がつかない。


すぐそばにあるもの。


世界の出口みたいに。


「たまには健康的なもの食べたいな」


「料理でも習う?」


「男の料理教室に行くか」


「それもいいかもな」


僕は結婚できなかったのではなく、結婚しなかったのだ。


ベランダのミントがほとばしるエネルギーを発散させていて、ぷん、と薄荷の匂いがした。



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